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未来を育む都市
「2050年。あなたが暮らす町は、どんな町になっているでしょうか?」
2050年。
我が国が直面する人口減少問題。
2050年とは、少子化の時代(現在)に産声を上げた子供たちが社会の中心となって支えていく時代を指します。
この時代が直面する問題に、芸術・文化には何が出来得るのか。今回の講座では、博報堂「生活圏2050」のプロジェクトリーダーでもある鷲尾和彦さんを講師にお迎えし、鷲尾さんが2014年から共同プロジェクトを行うオーストリアの地方都市(リンツ市)で開催されるアートフェスティバル「アルスエレクトロニカ」を事例に、衰退する地方都市がどのように文化芸術都市へと生まれ変わったのか、をレクチャーしていただきました。
【アルスエレクトロニカ】
芸術祭、コンペティション、センター、ラボをはじめとする活動全体を示す名称である。この言葉は、人間が作り出す「技」や技術という意味を持つラテン語の「アルス(ars)」と、テクノロジーに影響を受けた文化を意味する「エレクトロニカ(Electronica)」とが合わさったもの。テクノロジー(技術)とアート(人間の創造性)を通して、人と社会がどのように変わっていくのかを考察する、それが「アルスエレクトロニカ」のヴィジョン(哲学)だ。
(引用:『アルスエレクトロニカの挑戦: なぜオーストリアの地方都市で行われるアートフェスティバルに、世界中から人々が集まるのか』鷲尾和彦(2017年)学芸出版社)リンツ市はもともと重化学工業に頼ってきた都市であり、アルスエレクトロニカを介し、現在の未来志向の文化産業都市への推移には30~40年の時間を要したそうです。
アルスエレクトロニカは市民の生活の場である街の中で開催されます。日常のと非日常、先端なものと従来のものが街中に並列されることから市民は自然とそして積極的に創造性を生み出し、日常の中に可能性を感じていきます。
また市民が、単に「寛容さ」だけではなく、未来の変化をポジティブに受け取り、楽しもうとするオープンな精神を持ち合わせていることも発展を遂げた大きな要因の一つになっていると考えられています。
リンツ市の行政もまた市民に対しオープンな考えを持っています。
・働く街から暮らしたくなる街へ
・行政の仕事は、人々が想像性を発揮しやすくなるようなフレームを与えること
・市民がいつも未来に対して柔軟で開かれた姿勢でいられること
・大切なのはハードではなく、創造性を高めていき仕組みを育むこと
市民と行政が共に、アルスエレクトロニカを通じ、公共の場で実験的な取り組みを行うことで自身の中から発展を生み出す。
花を咲かせて実を結ぶまでには、土壌となるSOIL(文化・風土)、ROOTS(哲学)、そして花を咲かせるTREE(事業)が必要であり、実の部分FRUITS(商品)だけを摘み取って持ち帰っても意味がない、と鷲尾さんは教えてくださいました。
とても印象に残った部分です。
私たちに求められているものは、他所からいい例を見聞きし持ち帰り単にまねるだけではなく、「次世代にどんな町を残していきたいのか」願いを明確にし、それを軸にし、土壌を育てその土地にしかない花を咲かせ実をつけることである、と学ばせていただいたような気がします。
アートマネジメント講座も折り返し地点を迎えました。
どの講座にも繰り返し出てくるキーワードがあると思います。
受講生がそれぞれにキーワードを見つけ出し、ご自身の花を咲かせ実を結ぶ日がくることがこの講座の「軸」であり「願い」だと思っています。